有田町生涯学習センター図書室
漂着日 2008年3月
有田到着は昼12時を少し過ぎたころ。小雨降る天候である。途中から旧道伝いに
歩いてきて3時過ぎにたどり着く予定だったが、雨の中をあえて歩く気もしなかっ
たので、大村線から佐世保線と乗り継ぎ、列車での早い有田入りとなった。
言わずと知れたやきものの町である。ただそちらの方にはとんと興味が無い。此
処へは私の旅のテーマの一つである「これまで泊まったことのない町で泊まる」た
めにやって来たもの。
これまで佐賀県では、唐津、武雄、鳥栖、佐賀の各市に宿泊しているのだが、今
回はこれに2ヶ所上積みしていく予定で、有田町、吉野ヶ里町を選択している。
興味無いとはいえ有田へ来たのだから街も一巡りし、やきものギャラリーの2つ
3つも覗いてみるつもりではいたのだが、大した降りでないにしろこの雨の中、当
ても無く散策するのも気が乗らない。この時間では宿に行くにも早すぎる。
こういう時こそ図書館の出番とも言えるが、どうもこの有田町には図書館は無い
ようで、駅頭に掲げられた市街地図にも表示は見当たらない。公民館図書室の類は
あるんだろうが、あまり小さな施設に長居も出来ないし、ここは他のオプション探
すとしよう。
という訳で駅構内の観光案内所へ。私の場合、事前に観光施設などを調べてくる
とかはほとんど無く、大抵出たとこ勝負で切り抜けている。今日のように案内所で
情報貰うこともあるし、案内所があってもあえて寄らず、それこそ行き当たりばっ
たりに街へ出て行くこともある。
観光案内所で九州陶磁文化館という県立の陶磁器博物館を教えてくれたので、其
処へ行くことにした。有田焼も見られるし、大きな施設なので2時間位過ごせそう
だ。何より入館無料というのが気に入った。
文化館までは徒歩で10分足らず。駅を背に真っ直ぐ進み、突き当たった丘の上に
あるという。雨はしとしとと降る春の雨。ウインドブレーカーで十分凌げるので、
そのまま出発。
駅通りを足早に物の100m余り行った辺りだが、右側の建物の玄関に出されている
掲示が目に入り、ふと足を止めた。暫し眺める。
それにはこう書いてあった。
「どなたでも どうぞお入りください」
「この心優しい言葉を掲げるのは何?」と、建物の名称に視線転じれば、なんと
其処は図書館だった。正確には有田町生涯学習センター図書室。
「おお、此処にあったのか」 駅の地図では全く気が付かなかった。載って無か
ったか、見落としか。まあそれはどっちでもいい。
思わぬ「出会い」と優しい言葉に誘われ、吸い込まれるように中へ。
ドア開いて入ればダイレクトに図書室だった。図書館と名乗るのを控えているだ
けあって広くはない。小学校の教室、2つから3つ分といったところだろうか。隅
っこに短いカウンターがあり若い女性職員が1人座っている。
室内は実に静か。最初は誰も来てないのかと思わせたが、書棚の間に、1人また
1人と幾人かの利用者はいた。
狭いだけに書棚も少なく、本も少ない。ただ座席は規模の割には意外と多い。サ
ッと目で数えてみた処、その数48席。ソファーや応接セット風の席もあり、くつろ
いで資料の閲覧が出来るようになっている。8席ながら学習用といった席もあるが、
これは書棚で囲まれるように配置され、勉強し易いよう気を配っている。
これなら此処に暫く居ても、そう邪魔にはならないだろう、と判断。窓際のミニ
応接セット風の席を利用させてもらう。椅子は適度にクッションが利き、座り心地
いい。
朝日、佐賀日報と新聞読み、次いで週刊朝日持ってきて開く。
窓の外は雨。しめやかに降っている。ページ繰るうち静かに時は過ぎ、いつしか
豊饒感とでもいった気持ちよさに包まれていった。
と書けば、わざわざ九州まで行って、東京でも出来ることで時間潰すなど勿体な
いことだ、と突っ込み受けそうだが、観光名所巡るよりこうして過ごすことに旅の
味わい覚えるのだから仕様がない。
週刊朝日も東京で読むより、旅の空の下、九州有田の小さな図書室で読む方が記
事も冴えている……という訳ではないけれど。
それにしても静か。昼食時過ぎたので、利用者も増えてくるかと思ったが、入れ
替わりはあれど4、5人はいるかな、といった状態が続いている。今日は日曜で、
東京辺りだと日曜午後の図書館は相当混み合うのだが、此処ではその気配全く見え
ない。雨のせいもあるだろうし、就業構造の違いから日曜の利用者が特別多いとい
うこともないのかもしれない。
それと「吸引力」か。やはりこの規模この開架書架の量では町の人も足繁く通う
気にはならないだろう。
となると、本格的な図書館をという話になるのだが、これはもう有田町民の選択
に任せるしかない。
ただ人口1万人クラスでもいい図書館持ってる町はざらにあるのだから、2006年
の西有田町との合併後で約22000人(合併前だと約13000人)の町民がいて、歴史と
高い知名度持つ有田町に蔵書10万冊規模の図書館があっても当然だろうとは思う。
*図書館床面積 *蔵書
留辺蘂町(合併して北見市) 北海道 9488人 1513u 131000冊
大栄町 (北栄町) 鳥取県 9288人 1476u 98000冊
早島町 岡山県 11905人 1250u 103000冊
口之津町(南島原市) 長崎県 6893人 1234u 120000冊
人口は2001.3.31現在の住民基本台帳より
*は日本の図書館 統計と名簿2008 より
上はこれまでに私が見てきた例で、何れも小さな町でありながら「えっ、こんな
処に(スイマセン)」と目を見張るような図書館構えていた。早島は文化ホールな
どと一緒の複合施設だがその他は単独館で、留辺蘂など1994年には既に建てられて
ていて「東京でもこんな垢ぬけた図書館はそうはないな」と唸ったものだ。大栄町
は駅から2分に威容見せ、口之津は人口7000人で蔵書10万冊超の図書館開設してい
たわけで、立派というしかない。
これらの町に堂々たる図書館があるのに、有田町にはその何分の1かの図書室し
かないとは、いかなる理由によるものか。どう考えても不思議でならない。
いい図書館を持つことは住民の権利。
町民奮起して早く図書館を、と発破を掛けておこう。
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言わずと知れた言わずと知れたやきもののやきものの言わずと知れたたどり着く予定で辿り着く予定だったのだが、雨の中をあえて歩く