長野市立図書館

                                                                漂着日   2013年8月

 夏の終わり、信州にやって来たのは特に目的あってのことではなく、9月10日
の有効期限が迫ってきた青春18きっぷの消化兼ねた軽い散歩とでも言ったもので
ある。初日の宿は長野市としたが、これも「たまには長野の街を歩いてみるか」
程度の軽いノリで決めた。
 最寄りの総武線亀戸駅を電車も空いてきた10時前に出て、御茶ノ水、高尾、小
淵沢、松本と普通列車を乗り継いで、16時半過ぎに長野着。まあ順調というか、
坦々たる移動。松本の手前で地元の女子高生(私服だったから確信はないが)と
言葉交わしたのが唯一のアクセントか。
 信州には相当回数来ていて、小諸、安曇野、上田などには相当数泊まっている
のだが、県都長野市はこれまで1泊しただけで、ほとんど素通りだった。宿を含
め、また来ようと思わせるだけのものがなかったということだが、前回から十数
年は経っているから感じ方も変わるかもしれない。
 と思って来たのだが、結論から言えば新たな魅力発見とはならなかった。特別
に用でもない限り、この先もこれまで同様素通りかな。

 翌朝宿を出て、善光寺と門前町の辺りを歩き回り、公園で缶コーヒー飲みつつ
一休みした後、長野市立図書館へ。今回図書館は是非にというほどでもなく、街
歩きに興が乗れば、其れを楽しむだけで長野去ってもよかったのだが、どうも町
並みにも心誘われるものもなく直ぐ飽いてしまった。町によっては通りから通り
へと自然に足が伸び、気が付けば「こんなに遠くまで来てしまったのか」という
こともあるのだが、長野の街はそうではない。この日は14時半頃の列車で小諸ま
で行けばいいだけなので時間もあり、結局は図書館訪問となった。

 図書館があるのは市中心部だが大通りからは離れた比較的静かな一画。傍に信
濃教育会館、長野地方裁判所、長野合同庁舎などがあり、官庁街と言えるか。信
州大学教育学部も近い。
 建物はどっしりとした3階建て。シンプルで装飾性は薄いが重厚さ漂わせ、い
かにも公共施設といった建築物である。規模も中々のもので、図書館HPに依れ
ば開架20万冊、書庫30万冊であるらしい。ただ長野市の図書館は県立は別にして
此処と市南部の篠ノ井にある南部図書館の2つだけで、三十数万の人口擁する教
育県としてつとに知られた長野の県庁所在地として少し寂しいかなと思わせる。
この辺りは98年冬季オリンピック開催の後遺症なのか。
 その手薄さカバーすべく28の公民館に分室があり、保健センターや児童センタ
ーなどには文庫というのが36ヶ所置かれている。ただオンライン化がされてない
ので、図書館のカードは分室・文庫では使えず、予約した図書館の本を受け取る
ことも、返却することも出来ない(文庫・分室間も同じ)。また複数の分室から
本を借りるに際してはそれぞれで登録して、分室ごとの貸出券持つ必要があるな
ど、使い勝手は悪そう。今時オンラインが難しいということはないと思うからネ
ックは施設間の回送だろうか。

 さて図書館へと入っていくのだが、ここで先に断わっておくと、この時はする
ことも無いので時間潰ししようとやって来たもので、HPの材料を得ようとかは
全く考えていなかった。適当に館内見て歩き、その後新聞雑誌でも読んですうっ
と帰るつもりでいたから、メモの類も全く取っていない。従って今回は後で補足
的に調べたことはあるが、ほとんど記憶のみで書いていて、ポイントもかなり絞
ったものになっている。
 ただ時間潰しだけですうっと帰るはずが何故こういうものを書いているかとい
うと長野市立図書館に看過出来ない悪弊感じたからで、当日も「御意見箱」あっ
たので、長野市民に成り代わり注文付けてきたが、旅終えた後こういう図書館が
あったというのもHPに残してもいいかなと思ったからである。

 1、2Fに書架が並ぶ図書室があり、3Fは閉架書庫と視聴覚室、講義室とい
うのがこの図書館の構成。この日は講義室が自習室として開放されていた。
 入っていくと手前に新聞雑誌コーナー、児童書コーナーがあり、奥が一般図書
エリアで書架がずらりと並んでいる。書架の背は高く6段~7段もので、本もび
っしり詰まっている。
 林立する書架の谷間へと歩を進めたのだが、本より先に目に留まったのが書架
の側板に貼られた印刷物。それは分類記号から探す本への行き着き方を説明した
もので、図書館ではよく見るし、それ自体悪いものではない。
 ただこの図書館貼ってる数がハンパではない。普通は各フロア1~2枚程度で
はないかと思うのだが(もちろん図書館によってはもっと貼ってる処もあるだろ
うが)此処はあらゆる書架の側板に、と言っていい位すごい数を貼りまくってい
る。見たことのない美観も何もあったものではない異常な光景で、こんな数貼る
かとその執拗さに背筋寒くなるような思いもする。
 これはもう単に<本の探し方教えます>という域を越え、図書館から利用者へ
の強いメッセージだろうと私には感じられた。そしてそのメッセージとは何かと
いうと、要は職員に本の場所を訊くな、ということか。
 想像するにこの図書館では相当な頻度で、利用者が職員摑まえ検索した本が何
処にあるか尋ねていたのだろう。それを嫌っての<職員頼るな、自分で探せ>と
いう本音を異常な数の印刷物に代弁させていると見た。
 私がそう推測した根拠は、とにかくこの図書館本を探しづらい。棚も大きく本
もびっしりなのに分類は大まかで見出しもほとんどない。これではよほど図書館
に精通した人間でもなければ、職員頼ってしまうのも無理からぬ処ではないか。
本来この図書館がやらなければいけないのは、こんなチラシべたべたと貼り付け
て美観損なうことのではなく、スムーズに本を探せる棚作りだろう。
 国際金融について調べたい人が経済の棚へ行って見渡せばその見出しが目に入
り、すぐさま並んでいる本を手に取って中味に当たれる。そんな分類配架になっ
ていれば職員に訊くことも無いのだが、いかんせん此処は経済も3次分類止まり
で見出しも無しの惨状で、それにほど遠い。密林に分け入って、木を一本づつ見
て歩く位の手間が必要になる。
 493内科学など1000冊はあろうかというのにそれ以上分類もせずにただ図書記号
の50音順に並んでいるだけ。これでスムーズに求める本が探せると思っているの
だろうか。循環器、呼吸器、消化器などいくらでも分けられるだろうに。そして
それが利用者の便益に叶い、且つ今の時代の最低レベルということに気が付かな
いのだろうか。その辺りはいくらなんでも判っているはずだが、要するに手間の
掛かる仕事には手を付けず日々送っていこうということか。いかにも公務員的で
はあるな。
 
 分類は210日本史、361社会学、783球技、914文学などは4次だが後はほとんど
3次止まり。先に書いた通り見出しも無きに等しいので求める本に辿り着くまで
には随分無駄な時間使わされる。
 コンピューター関連も一つ所に固められてはいるが、007(情報科学)547(通信
工学)548(情報工学)としか分けられていない。折角同じ棚に持ってきているの
だからもう一歩踏み込めよと思うのだが、其処までしないのがこういう公務員仕
様で運営されている図書館の限界とも言えようか。
 本が探しづらいこと、滋賀県辺りの先進的な図書館見学して現代の図書館はど
うあるべきか、少しは勉強したらどうかなど簡単に書いて投函。

 そして目に付くのが棚の汚さ。場所が違うということはないが、並んでいる本
が波打っていたり、デコボコだったりと実に見苦しい。この図書館一般図書は1
Fに文学、生活関連それと何故か 300台社会科学があって、その他が2Fという
配置で1Fも乱れているが、2Fの方がよりひどい。歴史とか 400台自然科学な
ど普通はそんなに乱れないだろうという棚も本の背は揃わずデコボコしている。
私が入館したのが昼前で此処の開館が9時45分となっているから僅か2時間でこ
の有り様ということは閉館時の整理もしていないということか。
 丁度すぐ近くで女性職員が配架作業中だってので、暫し観察してみた。作業は
手にした本を棚の所定の場所に差し入れるというありきたりのもので、あまりス
ピーディでもなかったが、その並べ方たるや飛び出したり引っ込んだりと実に雑
であった。そして其れっきりで本の背を揃えるなど整理作業は全くしない。当然
棚は不揃いで汚い。
 なるほど、配架の段階でこうであったか。綺麗にしようという意識が全くない
のだから棚も見苦しくなるはずだ。これはこの職員がどうというよりこの図書館
の方針とみていいだろう。全館そうなのだから。
 しかし本を乱雑に並べて平気な図書館というのも初めて見た。神経疑うという
お馴染みの台詞の出番だが、これも長野市民にはこの程度で上等と利用者舐めて
いるから出来るのだろう。一応こちらに関しても投稿はしてきた。
 それにしてもこの状態がまかり通っているいるというのも不思議。長野なんだ
から「本は綺麗に並べろ」とかいう人いそうなものだが。
 長野の県民性として理屈っぽくて堅物、几帳面、融通が利かないなどが通り相
場だが、常日頃利用の人達この状態で良しとしているのだろうか。長野県人とし
てはちょっと物分り良すぎるのではないか。
 来ている人に「どう思ってるんですか?」と訊いてみたくもあったが、さすが
にそれはスルー。
 長野県人も近年は従順になったのだろうか? などと思いつつ引き揚げた。

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