台湾火車旅出たとこ勝負
其の8 旅の終わりに冷汗三斗
7月25日火曜日 晴 台湾8日目
台湾最後の日が明けた。本日最大のミッションは夕方6時過ぎ迄には桃園機場
に辿り着き、8.40 発の羽田行に乗り込むこと。失敗は許されない。
9時前にはオーナー夫妻に見送られ宿出発。火車站行くにはまだ早かろうとい
うことで街歩きしつつ朝食の算段。結局中山路と公正街の角の公正包子店で小籠
包を外帯(テイクアウト)。この時応対した女店員はいかにも肉まん屋さんらし
いなどと言うと怒られそうだが、ふくよかなアラサー近辺のお姐さんで、仕事の
手際も良ければ接客にも温かみ感じさせ、朝から気持ちいい買い物が出来た。1
ツ5元を6ツ買ったので支払いは30元、邦貨にして110円余と安かった。

公正包子店
花蓮旧站まで来ていた鉄道跡が緑道公園に整備されているので其処へ行ってベ
ンチで朝食タイム。熱々のを頂いたが実に美味い。日本人がイメージする小籠包
とは異なり小振りな肉まんといったところで、ボリュームもあり4ツ食べたらい
い加減に腹も脹れ、残りの2ヶは車中でのおやつに回した。
腹も脹れた処で早目早目に台北に接近するのが得策との思案もあり、火車站へ
向かう。もちろん歩いて行ったが着いたのは丁度10時だったか。構内に入り電光
パネル見上げれば 10.05発潮州行莒光号の表示が目に飛び込んできた。潮州行な
ら南行だな、北へ行く私には用がないとスルー。
しかしよくよく見ればこの列車何故か北行になっている。花蓮の南に位置する
潮州へ向かう列車が北へ行くとはこれ如何に。何かの間違いかとも思ったが壁面
に貼ってある途中駅も入ったやや詳しい時刻表で確認すれば、台北まで北上し其
処から南下始めて西部幹線を遙か南の潮州まで走る経路に間違いは無かった。
台湾を1周している台鉄の幹線を時計の文字盤に準えれば、花蓮があるのは3
時辺りになる。台北が12時、台南は4時と5時の間で高雄が5時を少し過ぎたく
らい、そして潮州は丁度6時に位置している。つまりこの莒光号南へ行くなら4
分の1周すればいいところをその3倍の距離を走る訳だ。
なるほど台鉄ではこういう長距離ダイヤも組んでいるのか。利点と狙いの程は
……判らない。まさか鐡道ファン喜ばせるためではあるまいな。
この列車花蓮が始発で10.05、以下主要な駅を記すと宜蘭 11.43・台北13.43・
新竹15.22、海線経由なので台中には入らず彰化17.16・台南19.55・高雄20.45と
きて潮州には 21.30に到着する。所要11時間25分運賃1053元と出ている。
尚後で判ったことだが、台鉄では台北発台北行という完全に台湾1周する列車
も走っていた。先ず西部幹線を走る反時計回りが6.01 発で1周して台北に還っ
てくるのが19.59と所要13時間49分。時計回りが8.11発 21.52着で13時間41分の
旅となる。運賃は1533元。完乗すれば話のタネにはなるかな。私はやる積りない
けど。

花蓮火車站構内風景
壁の時刻表見てる間に 10.05の莒光号は行ってしまい、では次の13分発自強号
にするかと窓口行ったら此れが無座では乗れぬ普悠瑪号で空席無く出直しとなっ
た。もう一度時刻表を見たら26分発の復興号があったので再度窓口へ行けば此方
は無事発券された。運賃は区間車と同じで141元だった。
宜蘭 12.01の着。此処まで来れば台北も指呼の間。直行バスも頻発しているか
ら多少のアクシデントが起きても何とか辿り着けるだろう。少しホッとするもの
もある。
南の台東中ほどの花蓮と並ぶ東海岸の主要都市で、近年は勢いがあると昨日泊
まった民宿のオーナーも語っていたのだが、駅前の眺めは意外と地味だった。火
車站もそれほど大きくはなくありふれたもの。ただ站舎改築工事中なので完了後
は変身した姿を見せるかもしれない。此処からは区間車の本数も増えるので台北
へは区間車で向かえそうである。
時間あるので街を少し散歩。あまり歩き心地のいい街ではない。果物屋の店頭
覗いたりしながら駅周辺をぐるっと一回りしてきた。

宜蘭駅近くの果実店
13.05 発区間車にて宜蘭離れる。宜蘭から台北へは直行のバスもあり、台鉄が
この先山間縫ってうねうねと弧を描くように進むのに対しバスは近年開通したと
いう長大なトンネル通ってほぼ一直線に台北を目指すので時間も早く運賃も安く
到達できる。
バスが得かと幾分心は動いたが、やはり最後は区間車で締めたいとの思いが勝
った。行きたい所があるので切符は台北一駅手前の松山站まで購入、131元。
宜蘭出た区間車は最初の内海沿いを走り1時間ほど過ぎた辺りで山間へと分け
入る。普通列車だけに進行は緩やかで、なかなか台北が視界に入って来ない。掛
かっても2時間だろうと楽観的に見ていたが、実際は2時間半掛かり15時半過ぎ
松山に到着。
この先時間も押しているので松山に着いたら素早く改札抜けてタクシー摑まえ
ようなどと算段していたのだが、思いがけず松山站は地下駅で、改札出たら MRT
の駅がすぐ其処にあり地上に出るより早いかとMRT利用に切り替えた。
台北 MRTは初めてだが戸惑いはない。松山新店線で行き文湖線への乗り換えも
スムース。ただ階段登ったり下りたりとかなり歩かされて時間食ったのは誤算だ
った。
大安駅で下車。信義路ー建國南路と歩いて16時半頃私が台北で唯一訪ねたかっ
た台北市立図書館總館に到着。旅の最後に図書館訪ねるのも味なものではないか
と自分で勝手に思っている。

台北市立図書館總館
台北市立図書館總館は地下3階地上11階建ての大きなビルで全館が図書館乃至
図書館関係施設である。B1B2に児童関連、1Fはエントランスとインターネ
ットコーナーで2F新聞雑誌コーナー、3~5Fが一般成人閲覧室という構成。
後は6F自修区・7F行政中心(管理センター)・8F視聴室・9F多元文化資
料中心(Multicultural Information Center)・10F会議室で11階には臺北市楽
齡学習示範中心という高齢者対象の施設がある。
一応2Fから5Fまで見て回ったが並ぶ資料が中文という違いはあっても佇ま
いは日本の図書館と変わらず、利用者も同系だから日本にいるような気になって
くる。各フロアは広大な面積を有しているというほどでもなく、バックヤードの
程は判らないが見えてるスペースだと5~600㎡くらいか。
表示は書架の側板に貼ってあるだけなので近寄らなければ判らない上字も小さ
くて見づらくとても利用者に優しいとは言えない。
フライトの時間も迫っているのでさっと見て引き揚げるつもりでいたのだが見
出すと中々切り上げられず、図書館出たのは18時も過ぎていた。建國路渡った向
いに広がる大安森林公園横切り MRT大安森林公園駅へ。
そして券売機の前に立ち桃園機場第一ターミナルまでの切符を求めようとした
が、空港へ向かう路線の表示はない。この時初めて市内を走る MRTと空港へ行く
MRT が別会社ということに気が付いた。会社が違っても桃園機場に行ければ問題
はないが、頭をチラと掠めたのは乗り継ぎに想定外の時間喰うのではないかとい
うこと。とにかくフライトが20時40分なので余裕はないのだ。因みに前者は台北
捷運、後者は桃園機場捷運の運営となっている。
淡水信義線で4駅の台北車站で下車。此処は台鉄、高鐵、MRT が集まる台湾最
大のターミナル。地上にある台鉄の駅舎は豪壮で見ものと聞いてはいるが其れを
見に行く余裕はない。地下街をひたすら機場捷運目指して歩くがやはり此れが遠
い。東京のメトロ一駅分は優に歩いただろうか。
桃園空港第1ターミナルのピーチ航空チェックインカウンターに辿り着いたの
は19時半も過ぎた頃。締め切りまでもう20分切ってはいるが何とか間に合った。
乗り込むまでには時間喰ったが、乗れば MRTさすがに早く約30分で空港まで運ん
でくれた。最もその分運賃は 160元と台鉄や台北捷運の良心的?な価格に比べ目
のたまが飛び出るくらい高かった。台鉄の区間車なら160元で109㎞行けるからざ
っと3~4倍となるか。余りの高さに乗るの止めるかとも思ったが、さすがに此
処へ来ての代案はなく渋々の利用となった。
チェックインもスムース。台湾系かと思える日本語があまり上手ではない女性
スタッフが発券してくれたが、彼女もフレンドリーで好感持てる対応だった。
搭乗券も無事手にし、ホッとした処で空腹覚えた。そう言えば今日は公正包子
の小籠包とミルクティなど飲み物しか採っていない。前にも書いたが私は食に対
する執着は薄く、空腹にも耐性があるので、旅行中など状況に応じ昼食抜きで動
き回ることもざらにある。今日も図書館だ、空港だと時間に追われて動いてきた
ので宜蘭手前の車中で小籠包2ヶ食べて以来ざっと8時間水しか採ってなかった
が、それほど苦痛でも無かった。
地下のフードコートへ赴きポークソテー風定食で腹ごしらえ。値段(160元位
だったか)の割りに美味くはなかったが、空港のフードコートなどこんなものだ
ろう。台北で適当な食堂選び食事済ませてから空港入りする予定だったが、その
時間を捻出出来なかったから致し方ない。
時刻は既に20時を過ぎていて速やかに出国手続きへ向かわなければいけなかっ
たのだが「まだフライトまで40分ある」などと妙に余裕持ってしまっていた。今
思い返しても不思議なのだが、何故かこの時此処が空港で乗るのは国際線の飛行
機だという意識が薄れ、台鉄の区間車利用するかで、直ぐ乗れるさといった感覚
だった。
地上へ戻り先ず両替。もうこれで台湾元を使うこともないだろうと窓口に残っ
た紙幣をすべて差し出す。4700元あったが戻ってきたのは16000円と189元(台湾
元の買取手数料は 100元)。日本円は千円札までしか用意してないらしく、端数
が台湾元で戻ってきた。入国時両替したのが 50000円だったから台湾1週間の旅
を初日ホテル代のクレジット決済分を加えても 35000円ほどで賄ったことになる
か。内交通費は台鉄・バス・MRT 全て合わせて6千7~800円見当である。
まあ贅沢とは無縁の慎ましい旅だったことが隠しようもない会計報告だが、火
車旅で台湾巡れたし北回帰線にも立ったし十分満足している。もう少し財布の紐
を緩めても大丈夫だったが使う処もなかった。
両替終えたのが20時15分位。いよいよ後が無くなった。即行で出国手続きへ向
かわなければ不味いとは思ったが、返ってきた 100元札がどうも引っ掛かる。日
本へ持って帰っても使えないし、次台湾へ来る予定もない。肖像が孫文とでもい
うのなら旅の記念としてもいいが、蒋介石とあっては残す気にもならない。
そこできわどい綱渡りは承知で 100元札消化するため売店へ。丁度 100元の菓
子がある。どんなものかよく判らないけど取り敢えずこれでいいと摑んでレジへ
行こうとしたら折悪しくレジが混んでいる。さすがにこれを待つのは無理で摑ん
だ菓子は元に戻し断念。結局時間消費しただけに終わった。
さあもう待ったなし。幸い保安検査、出国手続きとも待ち時間零で通過。もし
行列出来ていたら完全にアウトだった。スムースに出国エリアへと抜ける。よし
これで後は搭乗口へ行けばいい。しかし時計はもう20時23分表示している。航空
機のドアが閉まるのはフライト10分前と承知しているからあと7分。搭乗口はゲ
ートB1となっているが、とにかく標識に従いひたすら急ぐだけ。しかしこれが
遠い。
出国エリアへ入れば標識に沿って左へ行き、数十mでまた左に曲がり少し行っ
て右また左と鉤の手に進むとようやくBエリアの出国通路へと出たがこの時目の
前に広がった光景に息を呑んだ。
幅広の出国通路がズドーンとばかりに遙か彼方まで延びていて終わりは見通せ
ない。かなり先にかろうじてB5の標識が見える。あそこがB5ということはB
1はもっと先だろう。B5まででも2~3分は掛かりそうで、これはもう無理か
もしれない。LCCは「ピーチにご搭乗の〇〇さま」などと捜してはくれないだろ
うし待ってもくれないだろう。時間がくれば冷たくドア閉めて終わりだろうな。
あれほど用心していた乗り遅れが現実になりつつある。冷や汗が躰を伝う。国
際空港の規模を甘く見ていたなあと反省してももう遅い。さっきまでそこそこう
まくやってきたと自賛していた今回の旅だが最後にこんなどんでん返しが待って
いたとは。それでもとにかく急ぐ。
B1が見えてきた。しかし時間も無い。
さあどうなるんだろう。
了
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