台湾火車旅出たとこ勝負
其の1 よし台湾へ行こう
其の2 桃園から台中
其の3 北回帰線と台南の夜
其の4 台南を歩く
其の5 台南散歩
其の6 枋寮の選択
其の7 台鉄東部幹線を行く
其の8 旅の終わりに冷汗三斗
其の1 よし台湾へ行こう
「さあ行くか」と愛用のザック背負って家を出たのは夜の11時を少し過ぎた頃。
旅の目的地は海の向こう台湾だが、まずは羽田空港目指す。出で立ちはTシャツ
に短パン、クロックス風のサンダル履きと普段近所を自転車で走り回っているの
と変わらない気楽なもの。まあ近年夏の短い旅はこれで済ませている。2017年7
月18日、火曜日だった。
海外旅行は実に久々のこと。もう随分前より旅の選択肢から抜け落ちている。
特に海外避ける特段の理由あった訳ではなく「日本を極めよう」と国内旅行に打
ち込むうち海外が遠退いてゆき、パスポートが失効してからは考慮の余地もなく
なっていた。
それが今回、深夜家で一人ぽつねんと「仕事にも恵まれない、趣味の世界はじ
め日常も冴えない、なんかパッと気が晴れる面白いことでもないか」と思案巡ら
すうち「海外行くのもいいか」などと思いも掛けない閃きがあり、これまでなら
「パスポート申請から始めてられるか」と一顧だにしなかったものを何故か今回
は反応するものがあり「海外ねぇ」と思わず知らず渡航先探っていた。
もっとも行き先に関しては答は直ぐに出た。今回掛けられる予算はすべてひっ
くるめて1ケタ万円なので近場の数ヶ国に絞られ、更に国情、治安、好感度など
勘案すれば迷うところはなかった。
「台湾だな」 5分と掛からず結論は出た。
5月も終わろうかという頃だった。
羽田空港25時
最寄駅の亀戸から総武線、山手線、東京モノレールと乗り継ぎ羽田空港国際線
ビル駅に着いたのは12時を10分余り過ぎた頃。日付は19日と替っている。駅から
航空会社のカウンターまで延々と歩くのかなと思っていたのだが、案に相違し改
札を抜けて10秒も歩けばもう出発ロビーで、航空会社のチェックインカウンター
がずらりと並んでいる。そしてさすが24時間空港だけにこの時間でも行き交う人
は多い。

羽田空港国際線出発フロア25時
私が乗るのは早朝5時55分発の LCCピーチ航空台湾桃園空港行なのでまだ5時
間半はある。夜中に電車は動いてないし、タクシー乗り付けるのでは格安航空使
う意味もなくなるからここは空港で夜明かし。最近はそういう旅行者も多く、混
み合って居場所の確保も大変という話も聞く。
台湾便の搭乗手続きはまだ始まってないのでピーチのカウンター確認して、ま
ずは国際線ターミナル探検。初めてだけに見るものすべて新鮮に映る。3Fの出
国ロビー歩き回り、遠目ではあるが手荷物検査の様子観察して「なるほど今はあ
んな風にやっているのか」と本番に備える。
その後ベンチで暫し休憩し4Fへ。こちらは「江戸小路」という名前付いた和
のテーストの商業エリアでレストラン、物販の店が並ぶ。さすがにこの時間はほ
とんどが閉店しているが、端の方の牛丼店とハンバーガーショップは営業中で、
他にないとあってなかなか繁盛している。まあ私は家を出る前に買っておいた弁
当食べてきたし、携行食もあるからお世話にならずに出国していくだろう。
各店舗の前には赤い布を掛けた縁台が置いてあり、営業中は待合席なんだろう
が、この深夜は夜明かし組の寝台として利用されている。多分店舗ではなく空港
が配置したものだと思うが、どうぞ使ってくださいとばかりに置かれているとこ
ろに思いやり感じる。既に寝ている人も多いが、この日はそれほどの混みようで
なくまだまだ空いている。
5Fには展望デッキがあり24時間開放されているので出てみる。当然ながら外
は暗い。ターミナルビルに近い所はまだ灯りに照らされていて、駐機場に入った
飛行機の姿も眺められるが、少し先は巨大な闇が広がっている。この闇の向こう
に滑走路があり台湾に通じているのかと思うと幾許かの高揚感じないでもない。
台湾への道
再び4Fへ降りる。先程目を付けておいた縁台が幸いにもまだ空いていたので
確保。時刻は1時40分。離陸までは4時間あるが、2時間後位には搭乗手続きも
始まるだろう。少し眠っておくかと横になり目を瞑ったが、うまく眠りに入るこ
とは出来なかった。眠れぬまま目を閉じていると明日からの事これまでの事が頭
の中を行ったり来たりする。

お世話になった縁台 ザックと一緒に
行くなら台湾と一先ずの結論は出たが、それで「よし行くぞ」と走り出した訳
ではなく暫くは「行ってみるのもいいか」「いやいまさら海外もなあ」と逡巡の
時間があった。台湾には行ったことなく、実に久し振りの海外だけに臆するもの
もあるし、碌に仕事もしてないのに海外旅行などしていいものかと正常な自制心
も働いていた。どちらかというとパスポート取得の億劫なこともあり見送りに傾
き気味だったか。
風向きが変わったのは台湾の情報を集めだしてからで、台湾に関して新聞など
で報道される程度の知識はあるものの旅行事情を含め詳しい処は何も判らないの
で、とりあえず台湾の現状調べておくかと昼は図書館で夜はネットで情報入れる
内「台湾いいじゃないか、行ってみたい」と俄然その気になってきた。鉄道で移
動し趣ある街を散策するという私好みの旅が出来そうだ。マニアと言うほどでは
ないが、鉄道の旅は好きなのだ。
なんと言ってもマンネリに陥ってワクワク感もあまり感じなくなった国内旅行
と違い、さすがに台湾は新鮮で未知の魅力に溢れている。次第にこれはもう行く
しかないとの思いが昂じてきた。
「よし台湾へ行こう」何日も経たぬ間に心は決まった。
その後紆余曲折というのはなかったが、パスポート申請に赴く時と飛行機の予
約入れる時はちょっと立ち止まるという感じだった。特に飛行機の予約は、使え
るのは必然的に Low Cost Carrier の LCCなので、安い分キャンセルが利かない
(払い戻しが無い)リスクがあり、何らかの事情で旅行中止となったら世間的に
は大したことではないが、金のない私には堪える額がパーになるだけに慎重にな
ったというか臆病風に吹かれたというか、まあ最後のハードルではあった。
ピーチ航空で19日の便を予約したのは1週間前。日々運賃が変動する LCCだけ
に安い日を狙って買ったが、往復で東京と台北の空港使用料入れて2万5千円ほ
どと思惑よりは高かった。だが7月中には行きたかったし、もう夏のシーズンに
入ってきていて待っても安いチケットは出ないだろうとの判断で踏み切った。も
うこれで行くしかない。
さあ後は旅の準備だが、台湾と言っても特別なことはなくしょっちゅうやって
る日本国内の旅支度と変わらない。ザックも衣類も手持ちの物で事足りて、買っ
たのは文庫本サイズのメモ帳とボールペンだけだった。このメモ帳には出発前は
向こうで使いそうな情報を書き込んでおき、旅の空ではその日の出来事、気の付
いたことなど記録していく。筆談用としても使うだろう。今は皆スマホで済ます
んだろうが、なにせ私は時の流れに置き去りにされてるような人間なのでスマホ
には縁がない。昔から馴染んだアナログなメモ帳方式が最適である。
また私でも一応ガラケーなら持ってるが、今回の旅ではそれも置いて行く。向
こうで使う場面が想定出来ないし、いざという時は台湾も公衆電話網が整備され
ているから其れで対応出来ると見ている。以前海外に行った時も携帯電話なしで
特に困ることもなかったから今回も大丈夫と高を括っている。
旅の概要も固まってきている。台湾では6泊7日。19日の朝8時20分に到着し
25日夜8時40分に離陸していく。もっともこれはピーチの運行ダイヤに狂いがな
ければということになるが。
台湾内では台鉄(台湾鉄路管理局・大部分が日本統治時代に敷設された台湾の
国鉄)使っての移動になる。台湾で列車は「火車・かしゃ」なので火車旅をする
訳だ。本来火車は蒸気機関車を指す言葉なのだが、すべて電車、ディーゼルにな
った今日でも台湾の人達は台鉄の列車のことは火車、駅は火車站と呼んでいると
いう。
台鉄は台湾のほぼ海岸線をぐるっと一巻きしているので一周も考えているが、
必ずしも拘ってはいない。気に入った処で足が止まれば其処で折り返すことも十
分有り得る。まあその辺りは気の向くままということになるだろう。また07年か
ら高速鉄道俗にいう台湾新幹線も運行しているが、そちらには全く興味ないので
まず利用することはない。台鉄も出来る限り、向こうで区間車と呼ばれる各駅停
車で回ってくる積りでいる。
訪れる町は、色々調べる内台南が魅力的に感じられたので、今回は台南メイン
で行こうと6泊中台南3泊の予定立てた。宿も台南に着いてから探すのでは負担
も当たり外れも大きそうなので、ここは大人しくネット情報で居心地いいなどと
評価の高いゲストハウスを出発前にインターネット予約。ネット予約といっても
個人情報を延々と書き込んでいく手間の掛かるものではなく、HPの問い合わせ
フォームに「20〜22日泊まれますか?」と送れば「いいですよ、到着予定時間を
知らせてください」と返ってきてあっさり予約成立。手軽且つフレンドリーで、
私向きの宿だなと感じた。
この宿はオーナーが日本人で、客も日本人が多いとのこと。それでは国内旅し
てるのと変わらなくなりそうで、私もその点些か考えたが、やはり旅の情報は欲
しいし、話し相手も欲しい。中国語は話せず英語も錆びついている現状では同胞
に頼るしかないなとの結論に達した。まあ宿に日本が充満していても一歩出れば
台湾なのだからいいだろう。
それといい旅をするために情報が大事なのはもちろんだが、これまでの経験か
ら、あまりびっしり情報入れても却って旅の興趣が薄くなるというのが判ってい
るので情報収集もほどほどにしている。たとえば台鉄の時刻表なども調べられる
のだが、一切見ないで行く。現地即決主義で、駅に行ってからダイヤ見て「よし
此れで行こう」と出たとこ勝負でいく積りだ。列車取り逃がすリスクもあるが、
その方がワクワクする火車旅が出来るだろう。
さあ台湾へ
ピーチ台湾便の搭乗手続きが始まる旨の放送が入ったのは3時20分。ようやく
来たかという処だがあわてて立ち上がったりはしない。どうせ最初は長蛇の列だ
ろうから行列が嫌いな私としては其処に並びたくはない。まだ時間に余裕はある
し、暫く待つのが得策と落ち着いて座っていた。
そろそろいいか、行列も大分捌けただろうと4時を期して立ち上がり、3F出
発ロビーのピーチカウンターへ向かう。さあ無事にチェックイン出来るかと些か
の緊張感あり。なにせ安い代わりに客対応に問題が多いと言われる LCC、何が起
こるか判ったもんじゃない。冷たく「予約ありません。乗れません」とか言われ
たらどうしようと不安拭えない。
計算通り列は短くなっていて、それほど待つことなく番が来た。パスポートと
予約番号の入ったピーチからの受付メールをプリントアウトしたものを示し「さ
あ如何に」と固唾を飲んで入力する女性スタッフの手元を見詰めていたが、案ず
るほどのことはなくスンナリと搭乗券は発券された。スタッフの対応も温かみが
あり「噂と違ってピーチ意外と優しいじゃないか」と認識新たにした。
そして保安(セキュリティ)検査、出国審査もスムーズに通過。4時40分つい
に境界越え出国エリアへと出る。此処はもう日本ではない訳で搭乗ゲートへと向
かう長い通路歩きながら「待ってろよ台湾」とばかりの気合の高まりひしひしと
感じていた。
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