台湾火車旅出たとこ勝負
其の7 台鉄東部幹線を行く
7月24日 月曜日 晴 台湾6日目
台東朝の街を歩く。復興路、光明路、安慶街など昨夕と同じ街路だが、朝はま
た違う趣があり、夕方は何か慌ただしくもあったが朝はどことなくのどか。9時
を過ぎて人もバイクも多く行き交い賑わっているが、時間がゆったり流れている
かのように感じられる。

台東の朝 路上で野菜を売るおばさん達 あまり近づけなかった

台東の街角 空の色が結構気に入ったのだが
新生路の食堂に入り虱目魚(サバヒー)のお粥で朝食。傷み易いので日本には
入らず馴染みはないが、台湾及び東南アジアではポピュラーな魚という。味はま
あまあ。50元だったか。
旧站が台東鐡道藝術村と名付けられた観光施設として開放されているので其方
へも行ってみた。ホームと線路が往時の姿のまま残っていて自由に立ち入れる。
線路上にはレトロな車両も1台止め置かれている。それだけしかないのだが訪れ
る人ひっきりなしで、写真撮ったりして結構満足しているようだ。ノスタルジッ
クな佇まいに癒されているのだろうか。
私もホームの端まで歩き、線路に降りてレールで綱渡りするなど童心に帰り暫
く遊んでみた。
しかしそれにしても暑い。じりじり照りつける陽光は強烈そのもので、躰が焦
げるのではないかと心配になってくるほどだ。台湾に来て一番の暑さで軽く40℃
は越えているだろう。台南、高雄ももちろん暑かったが台東のこの暑さは格別。
緯度的には台南より少し南だが高雄よりは北になるので赤道により近付いている
訳でもない。この日の気象条件か台東の地勢か、いかなる要因作用しているのか
は判らないが、とにかく暑い。
私は暑さには結構強い方で太陽の光を浴びるのも好きな人間だが、さすがにこ
の暑さは持て余し気味。これ以上歩き回る気にもならず、総站前の公園の日陰で
ジュース飲みながらノンビリし、飽きたら総站へ行き、ホールの観光案内ディス
プレイをぶらぶら眺めたりして過ごした。
東部幹線を北上
昼過ぎのバスで台東火車站へ移動。昨日調べてあったが13.07の 自強号で台東
離れることにし東海岸中部の中核都市花蓮までの切符購入。333元とこれまでの
最高額だったが当然その分長く乗ることにもなる。
列車は台東始発ではなく南廻線通ってやって来た。台東は拠点駅だから降りる
人乗る人共に多く一頻り賑わい見せる。私は最後に乗り込んだのだが車内はびっ
しり満員で私の席だけ空いている状態だった。ギリギリ最後の1席確保出来たと
いうことか。席は今日も通路側。まあ繁忙期に直前購入では必然的に通路側とな
るのだろう。
今日の隣席は若い女性。年齢的には小姐だろうが裾の長いドレス風のワンピー
ススタイルで、やけにアダルトな雰囲気醸し出している。普通のOLとかではな
いようで、高雄のナイトクラブで売れっ子のお姐さんが夏休み取って里帰りかな
とそんな余計な想像してしまった。隣に若い女性が座っていると言っても別に嬉
しくもなく、逆にストレス感じそうではある。
話すことも無く最初の停車駅の関山で降りる人が結構いてあちこちに空席が出
たので私は離れた窓際の席へ移動。全席指定だが空いていれば座っていいという
台鉄ルールに則った。其処からは車窓の眺め楽しみながらの火車旅となる。
自強号は台湾東海岸を快調に北上する。もっとも台鉄はかなり内陸を通ってい
るようで海は全く見えない。幾つかのまちが現われては遠ざかっていく。台東の
次は花蓮と主要な都市しか見てなかったが、その間にも幾つもまちがあり、人々
の暮らしがある。其処を特急列車で走り抜けるだけというのは勿体ないようなよ
うな申し訳ないようななにか酸っぱい思いがあった。
途中の玉里はかなり大きな街が広がっているようで、玉里という優雅な名前と
も相俟って妙に心惹かれた。いつかこの街歩く日来るのだろうか。
花蓮に入る
花蓮 15.53定刻に到着。さすが台鉄しっかり定時運行している。有人の出口か
ら切符渡して出ようとしたら駅員は即座に切符を返してくれた。私が自動改札で
はなく有人の方に行ったのはちゃんと自強号の切符買って乗って来たよというア
ピールだったのだが――自強号など対号列車の切符は駅員に渡すものと思い込ん
でいた――どうも駅員は記念に切符を貰っていきたいのでこっちへ来たと取った
ようだ。切符収集の趣味はないのだが、せっかくの気遣い無にする訳にもいかず
「謝謝」と受け取って改札抜けた。
そして返してくれた切符改めて見たら日付や発駅、着駅、料金も入っていて今
さらながらではあるがこれはいい旅の記念になるなと思い新たにした。ひょっと
してこれからは切符集めたりして。

手元に1枚だけ残った切符
さて駅頭に立ち眺め渡す花蓮の街だが思ってた以上に大きそう。人口は10万強
で台東と変わらないはずだが台東よりずっと都会の佇まいがある。此処も台東と
同じく火車站と市の中心部は離れている。嘗ては鉄路が中心部まで延びていたが
廃線となったという点も同じ。ただその距離は台東よりずっと近く20分くらいで
歩いて行けそうだ。
ではまず地図を入手しようかと駅前の旅遊服務中心へ赴いた。と、その手前で
中年の女性が声を掛けてきた。観光客に近づくのはホテルかタクシーの客引きと
いうのが通り相場だが、やはり民宿の勧誘だった。あまりそういうのには乗らな
い方なので軽くスルーしようとしたが、この女性台湾の人だが上手に日本語を話
す。つい二言三言交わすうち私が花蓮の宿泊先としてマークしてきた日本人経営
の民宿の奥さんということが判った。いつもは客引きなどしてないが、この日ゲ
ストを近郊の景勝地太魯閣峡谷へ案内してさっき駅で見送ったあとついでに駅前
で張っていたそうだ。
実はこの民宿日本人オーナーなので何かの場合助けになるかとメモしてはきた
が、逆に台南もはむ家だったし日本人経営の宿ばかり泊まるのも面白くないとの
思いもあり避ける積りでいたのだ。
しかし宿の女将に駅前で声掛けられた。これも何かの縁か。取り敢えず先に旅
遊服務中心へ行って市街地図など貰いその後また話聞いたが宿代は1300元とちょ
っと高め。この民宿日本で読んだガイドブックに広告も出していて、それには確
か1100元となっていたはずなのでそこは指摘したが、今はシーズンに入っている
ので繁忙期料金だとか。1300元くらいどうということないし、話すうちにこの奥
さんの人柄のいいことも判ってきたので決めてもよかったのだが、やはり台湾に
来て6泊中4泊が日本人経営の宿というのが引っ掛かる。
結局後で行くかもしれないと、含み持たせ別れてきた。
駅前を台鉄とほぼ平行に通る國聯一路を少し歩くとメインストリートの中山路
にぶつかり、左折して海へ向かって行くと花蓮の中心街に達する。國聯一路に面
し花蓮市立図書館があった。開いていれば覗いて行きたい処だが、現在は耐震工
事のため休館中だった。もっとも工事している気配は全く無かったが。

花蓮市立図書館 休館中だった
30分足らずで此処いらが花蓮で最も賑やかな所だろうと思わせる街区に到着。
中華路、中正路、光復街などブラブラと見歩く。花蓮も暑い。が、台東よりは大
分まし。ざっと 180qほど北上してきたのでその分暑さも和らいでいる。そうい
えば途中瑞穂の辺りで北回帰線越えているから熱帯から亜熱帯へ帰ってきたこと
になる。
さて今日の宿だが、街歩きしながらつらつら考えて、やはり邦人経営の宿ばか
りも面白くないなと一度はもう1軒メモしてきていたレトロ感ある旅社にしよう
と決め其処を探したが中々見つからない。何事も楽観的に捉える適当な人間なの
で行けば見つかるだろうと住所も書いてきてない。ガイドブックの地図で大体こ
の辺かというのをインプットしてきただけである。
そのこの辺には来てるはずなのだが、さすが花蓮の繁華街だけに通りには看板
が犇めいていて探す旅社が把握できない。名前は書いてあるから近くの商店でも
行ってメモ帳示せば「あああそこだよ」と教えてくれるだろうが、何故かその気
にならなかった。
結局さっき駅前で勧誘受けた日本人経営の民宿選択。引っ掛かるものはあるが
多少は縁も感じたしまあいいか。裏に地図の入った名刺も貰ったから場所も判る
ことだし。
で、中心エリアだが静かな裏通りにある馨憶精緻民宿訪う。フロントにはオー
ナーの男性が座っていた。日本人なのでやり取りは日本語で済む。飛び込みの形
だが問題はなかった。一応さっき花蓮火車站前で奥さんと会ったことも伝えてお
いた。オーナーは一見取っ付き悪そうな風貌だが結構話好きの模様で、宿泊手続
きが済むと手製の地図や観光パンフ出して、かなり長い時間花蓮の案内してくれ
た。
ワンタンと微笑み
部屋に入り少し休んで外出。もう18時もかなり過ぎていたか。
まずは空腹満たすかと宿から徒歩3分の液香扁食店へ。扁食とはワンタンのこ
とで、ワンタン一本で勝負している店という。近いから選んだのではなく、花蓮
きっての人気店ということでオーナーの奨めもあり行ってみた。ガイドブックに
も取り上げられていたはずだ。
店はさすがに賑わっている。入るとすぐ右手が調理スペースになっていてワン
タンを茹でる釜、スープの釜が並びその前に陣取った女性が器にワンタンを入れ
てはスープを注ぎこみと次々と完成させていく。
左手には食券売り場があり丁度ピンクのポロシャツを着た女性が買っている処
だった。券売機ではなく店員の対面販売である。此処はとにかく単品メニューな
ので注文も迷うことはない。1杯とだけ言って70元払い食券受け取った。食券に
は465とナンバー記されている。今日465人目の客なのか。入口の区画にも何テー
ブルか置かれているが、食券売り場の前を通り越した奥に広い喫食所があるので
そっちへ入る。かなり広く、円卓が確か十以上は並んでいた。盛況で総ての円卓
に客が着いているが、相席御免なので何処かには潜り込めそう。
先ずは慌てて席に就かず壁際に立って注文システムを観察。と、其処へ大きな
トレイにワンタンをびっしり載せた小姐が現われた。そして大声でなにか叫ぶ。
すると奥の方のテーブルの男性が手を挙げながら叫び返し、それを受けた小姐は
其方へと移動。食券を確認して数だけのワンタンを配り、また叫び声を上げる。
叫んでいるのは食券の番号に違いなかろう。なるほど自分の番号呼ばれて手を挙
げれば持って来てくれるのか。
システムが判った処で席に就くことにし空席あった円卓に滑り込んだ。円卓は
直径1m強で周りに椅子が9脚置かれている。選んだテーブルでは3人組の女性
が喫食中で若いカップルがワンタンを待っていた。
システムが判った処で、次にクリアーしなければいけないのは華語が話せず、
小姐が何番叫んでいるのか理解出来ない私が自分の番が来たことを把握すること
だがこれはどうすればいいだろう。実は食券には番号の他<外国人>という単語
が打たれている。食券販売のお姐さんがこいつは外国人だなと見定めてそれ用の
ボタン押したら外国人と記載の食券が発行されるようだ。これはなんのためか。
ひょっとしてこの情報ホール係の小姐にも伝わるようなシステムが構築されてい
て 465番は外国人で呼ばれても判らないだろうからと私を特定して持って来てく
れるのか。いやしかしそれは期待しない方がいいだろう。あくまでも此処は自力
で乗り越えなければ。
さあ如何すべきかと思案巡らせたがその解は割りとスムースに出た。私の前に
食券を買ってた女性をマークしていてその人が受け取った次に手を挙げればいい
はずだと閃いた。さて先程の女性は何処にいる、と店内見回せば少し離れたテー
ブルに夫らしき男性と座っている。目立つピンクのシャツ着てくれていたのは幸
いだった。
そして待つこと暫し、ついにその時は来た(大袈裟だな)。件の女性が小姐の
呼びかけに応えて手を挙げワンタンを受け取っている。さあ次は私で間違いない
はず。しかし何か思い違いしてないだろうかと一抹の不安も拭えない。
向き直った小姐が叫ぶ。さあ此処だ。丁度目が合っている。すっと手を挙げる
と足早に寄ってきて、食券を確認するとワンタンを一つ渡してくれた。と、その
時小姐がにこっと笑い掛けた。マスクをしているので目元しか判らないが、笑み
を浮かべたのは間違いない。その意味するところは何だろう。私に秋波を送った
というのはまず無いな。
私にはあの笑みは「よく判ったわね、えらい」といった無言の誉め言葉ではな
いかと感じられた。やはり 465番が外国人というのが小姐達にも判っていて、ち
ゃんと手を挙げてくれるだろうかと案じていたら私がスムースにアピールしたの
で小姐もホッとして、それがあの笑みに繋がったのではないかというのが私の受
け止め方である。
さあこの読みで合っているか。単なる思い過ごしかもしれないが、それはもう
どうでもいい。花蓮の思い出の一つとしてあの小姐の笑みが残るだけである。
ワンタンは大ぶりの紙製使い捨て丼で運ばれてきて、それを小碗に少しづつ移
しながらレンゲで食べる。大きいのが10コ位入っていてボリュームたっぷり。ス
ープはやはり薄味だが美味い。途中からは卓上に置かれた豆板醤、酢、胡椒など
を加え、味を変えながら食する。
ワンタン食べるのも久し振り。前回食べたのは何年前になるだろう。それにし
てもワンタンと言えば何を指すのか。餡を皮で包んだ具材そのものが既にワンタ
ンなのか、それとも器に入れスープ張ってワンタンと言えるのか。そんなこと考
えながら食べていた。
ワンタンで腹満たしたあと昏くなってきた街を海に向かって歩き、花蓮の夜市
へ。東大門夜市という名前だが、実は原住民一條街、各省一條街、福町夜市、自
強夜市という4つの夜市が一堂に会したものという。2年前にこの地整備して集
めたそうだが規模も大きく店舗も多い。
綺麗に整備され店も屋台ではなく瓦屋根載せた恒久的な建造物なので、夜市と
いうより商業施設といった方がしっくりきそうだ。
ブラブラと見歩き、何ヶ所かで路上ライブやってたので、そちらも見物。シル
バー世代の懐メロバンドあり少女達のロックバンドあり民族音楽ありと多彩。暫
し楽しませてもらった。
ワンタンが結構ボリュームあったので夜市では何も食べることなく、喉の渇き
覚えた頃写真付きのメニューかざして声掛けてきたジューススタンドの女の子に
引き寄せられて蜂蜜レモンドリンク買っただけだった。
ただ夜市出た後やや空腹感じ、ビールも飲みたくなってきたのでコンビニへ寄
り道。ビール、おつまみ買い込んで帰館。フロントにオーナーいて少しだけの積
りが結構長く話し、台湾情報幾つか教えて貰った。
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